フォーメーションについて

1. 「フォーメーション(クロックワイズ・メカニクス)」とは?

塁審の動きについて各ページで説明しましたが、その中に「外野へ飛んだ打球」に対するジャッジが含まれていたと思います。

当然ですが、グランドには4つの塁があって、それを4人でジャッジするのが審判四人制。そのうち塁審1名が外野へ走りました。では残った審判員3名で4つの塁をどうやってカバーするのでしょう?

これは闇雲に掛け持ちするわけにはいきませんね。三塁に球審と二塁審がジャッジに来て二人で違ったジャッジをしてしまった。しかも1塁と2塁は空っぽだった。これでは公平なジャッジなどありえません。

こんな事態を避けるためには、何らかのルールが必要になってきます。そのルールというのが、「フォーメーション」または「メカニクス」なのです。特に審判四人制のフォーメーションは、「クロックワイズ・メカニクス(Clockwise Mechanics)」と呼ばれます。意味は、「時計回りのメカニクス」と言うことです。


2. 「クロックワイズ・メカニクス」を使用する場面

「メカニクス」の存在を知ると、つい頭の中が「メカニクス」でいっぱいになって、どんな打球に対しても「メカニクス」を意識してしまいます。かえって動けなくなるなんてことも良くあります。ここで、まずしっかりと頭の中を整理しておきましょう。

 

 1) 外野に飛んだボールだけ

「クロックワイズ・メカニクス」を使って他の塁をカバーするのは、審判員が外野の打球を追った場合だけ。つまり、内野へのゴロやフライには一切関係のないのです。これで、肩の荷が半分になりましたね。特に低学年の試合では、外野に飛ぶ打球が比較的少ないので、一試合通じてメカニクスを使う機会が無いなんてことは、よくあります。

2) トラブル・ボール

次のような打球は「トラブル・ボール」と呼ばれ、特に注意が必要です。「トラブル・ボール」となる打球が飛んだ場合は、審判員は良い角度をとりながら出来るだけプレイに近づいて判定をしてください。

 

①ファウル・ライン際の打球

②野手が前進して地面すれすれで捕る打球

③野手が背走する打球

④野手が集まる打球

⑤外野フェンスに到達するような打球

(少年野球の場合、スタンドがなく、ホームランのラインが引いてあることが多いので、ボールがラインを越えたかどうか、ダッシュでボールに追いついて確認することが必要です。)

 

ただし、上に挙げた「トラブル・ボール」でなくても、少年野球、特に低学年の場合は、何が起こるかわかりません。外野へ飛んだ打球については、外野手の真正面のゴロなど、当たり前に捕れる打球の他は、基本的に追って行く方が良いと思います。審判講習でも、外野への打球は、基本的に追うように指導がありました。

 


3. 外野への打球の責任範囲について

本格的なメカニクスの話に入っていく前に、まず基本となる各塁審の外野の打球に対する責任範囲の話から。


1) 二塁審が「外」の場合

走者状況:なし、三塁。(内野手前進守備時の)一・三塁、二・三塁、満塁。


外野責任範囲(二塁審「外」)


【一塁審】

ライト(右翼手)よりファウル・ライン側。

本講座では「ライト線エリア」と呼びます。

【二塁審】

ライト(右翼手)からレフト(左翼手)の間。

本講座では「センター・エリア」と呼びます。

【三塁審】

レフト(左翼手)よりファウル・ライン側。

本講座では「レフト線エリア」と呼びます。



2) 二塁審が「中」の場合

走者状況:一塁、二塁、一・二塁。(内野手定位置の時の)一・三塁、二・三塁、満塁。


外野責任範囲(二塁審「中」)


【一塁審】

センター(中堅手)よりライト側。

本講座では「ライト・エリア」と呼びます。

【二塁審】

内野の中に位置する時には、外野の打球は一切追

いません。

【三塁審】

センター(中堅手)よりレフト側。

本講座では「レフト・エリア」と呼びます。


4.「クロックワイズ・メカニクス」の原則

これから「クロックワイズ・メカニクス」の内容に入っていく訳ですが、まずは全体を通じての原則(もちろん例外もありますが)を上げておいた方が、理解しやすいと思います。

 

1) 外野へ打球を追った塁審は「追い切り」

いったん打球を追いかけて行った塁審は、プレーが一段落するまで(内野にボールが返されるまで)、内野に戻ってはいけません。「追い切り」です。

これは、外野へ向かった塁審のカバーのために、メカニクスを使って対応したのに、その塁審が戻って来てしまうと、ひとつの塁を2名の審判員が見る事態が発生し、責任があいまいになり、二重ジャッジを引き起こしてしまうからです。

 

2) 一人で、2つの塁をみることがある

当然と言えば当然ですが、4名の審判員で4つの塁を見ている訳ですから、1名抜ければ、誰かが2つの塁を見ることになります。審判員は走者の状況に合わせて、隣りの塁をカバーして両方の塁をジャッジすることがあります。

 

3) 本塁・三塁は、1名でひとつの塁を見る

4つある塁の中でも、本塁は得点そのもののジャッジとなりますし、三塁も最も得点に近い塁であるため、特に重要な塁と言えます。その重要な塁をジャッジする審判員は、原則、1名の審判員がひとつの塁に集中してジャッジします。本塁と一塁や、二塁と三塁をまとめてジャッジするようなケースは基本的にありません。

 

4) スコアリング・ポジションに走者がいる場合は、球審は本塁ステイ

スコアリング・ポジション(走者が二塁または三塁にいる状況)では、1本の打球が得点につながります。このような状況では、球審は最も大事な得点に絡む本塁でのジャッジに備えるため、本塁に「ステイ(Stay)」し、一塁や三塁のカバーに行くことはありません。

5.「クロックワイズ・メカニクス」の概観

まずは、「クロックワイズ・メカニクス」全体を眺めてみましょう。「クロックワイズ・メカニクス」は走者の状況と二塁審のポジション、さらに打球の方向によって分類され、下の表のように、27種類に分けられます。

(個々のメカニクスの解説については、表の中の画像をクリックしてください。)


上の表をぼんやり眺めて気がつくところがあります。それは、スコアリング・ポジションに走者がいる場合(表のピンク色のケースです)、走者の状況は異なるものの、打球方向によって各審判員の動きが同じになっているということです。わかりますか?

たとえば、センター・エリアへの打球であれば、走者三塁、一・三塁、二・三塁、満塁と、審判員の基本的な動きは同じになっているということです。

 

つまり、上の図をまとめて簡単にしてしまうと、次のような表になりますね。27種類あったメカニクスが、10種類に減りました。

さらに表をよく見てみると、次のようなパターン分けができると思います。

 

1) スコアリング・ポジション(得点圏)

レフト線エリア、レフト・エリア

センター・エリア

ライト線エリア、ライト・エリア

 

2) 時計回り(クロック・ワイズ)

走者なしレフト線エリア、走者一塁レフト・エリア

走者なしセンター・エリア

 

3) 反時計回り(カウンター・クロックワイズ)

走者なしライト線エリア、走者一塁ライト・エリア

つまり、6つのパターンにまとめられました。これなら何とか覚えられそうですね。

それでは、次から、個々のメカニクスの動きを見てみることにしましょう。


6.スコアリング・ポジション

スコアリング・ポジションの基本は、走者満塁パターン。ここから走者の状況によってタッグ・アップや触塁の確認が省かれていきますが、基本的な動き方は同じと考えて良いと思います。

  1)レフト線エリア、レフト・エリア

レフト線エリア(二塁審「外」)
走者得点圏 レフト線エリア(二塁審「外」)

レフト・エリア(二塁審「中」)

走者得点圏 レフト・エリア(二塁審「中」)


この2種類のメカニクスは、二塁審が「外」と「中」の違いがありますが、基本的に同じ動きになります。

 

【球審】

(1) 三塁走者のタッグ・アップを確認。

(2) 走者がスコアリング・ポジションにいるため本塁にとどまり、本塁でのプレーに備える。

【一塁審】

(1) 一二塁間のダイヤモンド内へ移動。

(2) 一塁走者のタッグ・アップまたは二塁触塁を確認。

(3) 打者走者の一塁触塁を確認。

(4) 一・二塁でのプレーに備える。

【二塁審】

(1) 三塁付近のダイヤモンド内へ移動。

(2) 二塁走者のタッグ・アップまたは三塁触塁を確認。

(3) 三塁でのプレーに備える。

【三塁審】

   外野へ飛んだ打球を追い、打球確認後、プレーが一段落するまで、その場にとどまる(追い切り)。

  2)センター・エリア

走者得点圏 センター・エリア

【球審】

走者スコアリング・ポジションのため、本塁にとどまり、本塁でのプレーに備える。

【一塁審】

(1) 一二塁間のダイヤモンド内へ移動。

(2) 一・二塁走者のタッグ・アップを確認。

(3) 一・二塁でのすべてのプレーに備える。

【二塁審】

   外野へ飛んだ打球を追い、打球確認後、プレーが一段落するまで、その場にとどまる(追い切り)。

【三塁審】

(1) 三塁走者のタッグ・アップを確認。

(2) 走者の三塁触塁を確認。

(3) 三塁でのプレーに備える。


3)ライト線エリア、ライト・エリア

ライト線エリア(二塁審「外」)

走者得点圏 ライト線エリア(二塁審「外」)

ライト・エリア(二塁審「中」)

走者得点圏 ライト・エリア(二塁審「中」)


この2種類のメカニクスも、二塁審が「外」と「中」の違いがありますが、基本的に同じ動きになります。

 

【球審】

走者がスコアリング・ポジションにいるため、本塁にとどまり、本塁でのプレーに備える。

【一塁審】

外野へ飛んだ打球を追い、打球確認後、プレーが一段落するまで、その場にとどまる

(追い切り)。

【二塁審】

(1) 一二塁間のダイヤモンド内へすばやく移動。

(2) 一・二塁走者のタッグ・アップを確認。

(3) 一・二塁でのすべてのプレーに備える。

【三塁審】

(1) 三塁走者のタッグ・アップを確認。

(2) 走者の三塁触塁を確認。

(3) 三塁でのプレーに備える。


7. 時計回り(クロック・ワイズ)

メカニクスを代表して名前を付けられているのが、この「クロックワイズ・メカニクス」。ですが、名前を取っているわりにパターンは少ないですね。

  1) 走者なしレフト線エリア、走者一塁レフト・エリア

走者なしレフト線エリア
走者なし レフト線エリア

走者一塁レフト・エリア

走者一塁 レフト・エリア


この2種類のメカニクスは、走者の状況や二塁審が「外」と「中」の違いがありますが、基本的に同じ動きになります。

 

【球審】

三塁のカバーのため、三塁へ移動し、三塁でのプレーに備える。

【一塁審】

(1) 一塁走者のタッグ・アップを確認。(走者一塁のみ)

(2) 打者走者の一塁触塁を確認。

(3) 球審が三塁へ移動したら、本塁へ向かい、本塁でのプレーに備える。

【二塁審】

(1) 視野を広げながら(ステップ・バック)一塁走者の二塁触塁を確認。(走者一塁のみ)

(2) 一・二塁でのプレーに備える。

【三塁審】

   外野へ飛んだ打球を追い、打球確認後、プレーが一段落するまで、その場にとどまる(追い切り)。


  2)走者なしセンター・エリア

走者なし センター・エリア

【球審】

三塁のカバーのため、三塁へ移動し、三塁でのプレーに備える。

【一塁審】

(1) 打者走者の一塁触塁を確認。

(2) 球審が三塁へ移動したら、本塁へ向かい、本塁でのプレーに備える。

【二塁審】

外野へ飛んだ打球を追い、打球確認後、プレーが一段落するまで、その場にとどまる(追い切り)。

【三塁審】

二塁のカバーのため、二塁付近のダイヤモンド内へ移動し、二塁でのプレーに備える。



8.反時計回り(カウンター・クロックワイズ)

「クロック・ワイズ」とは逆の方向へ移動するメカニクス。反時計回りということで、「カウンター・クロックワイズ」になります。


走者なしライト線エリア、走者一塁ライト・エリア

走者なしライト線エリア(二塁審「外」)

走者なし ライト線エリア(二塁審「外」)

走者一塁ライト・エリア(二塁審「中」)

走者一塁 ライト・エリア(二塁審「中」)


この2種類のメカニクスは、走者の状況や二塁審が「外」と「中」の違いがありますが、基本的に同じ動きになります。

 

【球審】

(1) 一塁へ移動し。

(2) 一塁走者のタッグ・アップを確認。

(3) 打者走者の一塁触塁を確認。

(4) 一塁でのプレーに備える。

(5) 走者が本塁に達する場合は、再度本塁へ戻り、本塁でのプレーに備える。

【一塁審】

   外野へ飛んだ打球を追い、打球確認後、プレーが一段落するまで、その場にとどまる(追い切り)。

【二塁審】

(1) 視野を広げながら(ステップ・バック)、一塁走者の二塁触塁を確認。

(2) 一・二塁でのプレーに備える。

【三塁審】

三塁でのプレーに備える。


9.審判員別 動きのまとめ

ここまで、走者と打球の状況をもとに「メカニクス」を分類してご説明しました。

次は、実際に審判を務める際にわかりやすいよう、各審判員別に「メカニクス」の動きをまとめてみたいと思います。


1) 球審

走者スコアリング・ポジションの場合

⇒本塁ステイ&三塁走者タッグ・アップ確認

本塁でのプレーに備えて、本塁にとどまります(ステイ)。

走者が三塁にいる場合で、三塁審が外野へ打球を追った場合は、三塁走者のタッグ・アップを確認。

一塁審または二塁審が打球を追う場合、三塁走者のタッグ・アップ確認は不要。(三塁審が確認します。)

走者スコアリング・ポジション以外で、一塁審が打球を追わない場合

⇒クロック・ワイズ(三塁のカバー)

三塁へ移動し、三塁でのプレーに備えます。

走者スコアリング・ポジション以外で、一塁審が打球を追う場合

⇒カウンター・クロックワイズ(一塁のカバー)

一塁へ移動し、打者走者の一塁触塁を確認して、一塁でのプレーに備えます。

走者一塁の場合には、一塁走者のタッグ・アップも確認します。

走者または打者走者が本塁に達する場合は、再度本塁へ戻り、本塁でのプレーに備えます。

 

2) 一塁審

外野責任範囲への打球

自分の外野責任範囲へ打球が飛んだら、ためらわずに打球を追いましょう。内野でのジャッジは残った審判員に「おまかせ」でOKです。

反応良く打球を追いかけるには、常に走者の状況(特に二塁審の位置)を確認しておきましょう。

下記②以下は、一塁審が打球を追わない場合の動きです。「自分のテリトリーに打球が飛んだら、とにかく追う!」まずは、これを徹底して下さい。

走者スコアリング・ポジションの場合

⇒ダイヤモンド内で一・二塁をジャッジ

一二塁間のダイヤモンド内へ移動します。

走者が一塁にいる場合、一塁走者のタッグ・アップを確認します。

打者走者の一塁触塁を確認します。

二塁および一塁でのプレーに備えます。

走者スコアリング・ポジション以外の場合

⇒クロック・ワイズ(本塁のカバー)

走者が一塁にいる場合、一塁走者のタッグ・アップを確認します。

打者走者の一塁触塁を確認します。

    ◎ 球審が三塁へ移動したら本塁へ移動し、本塁でのプレーに備えます。

 

3) 二塁審

外野責任範囲への打球

自分の外野責任範囲へ打球が飛んだら、ためらわずに打球を追いましょう。内野でのジャッジは残った審判員に「おまかせ」でOKです。

ダイヤモンド「中」へ位置している時には、外野への打球を追う必要はありません。

下記②以下は、二塁審が打球を追わない場合の動きです。「自分のテリトリーに打球が飛んだら、とにかく追う!」まずは、これを徹底して下さい。

走者スコアリング・ポジションの場合

⇒打球方向のダイヤモンド内で2つの塁を見ます

一塁審が打球(ライト方向)を追った場合は一・二塁を、三塁審が打球(レフト方向)を追った場合は、三塁をジャッジします。打球方向に移動すれば自然と対象の塁が視界に入ってくる感じです。

いずれもダイヤモンド内で両方の塁を見渡せる場所に位置し、ジャッジの際にはプレーが行われる塁に近寄ってジャッジして下さい。

走者スコアリング・ポジション以外の場合

⇒基本的に一・二塁をジャッジします

球審または三塁審が三塁をジャッジしますので、基本的に一・二塁をジャッジして下さい。

二塁だけをジャッジするケース、二塁と一塁を両方みるケースがありますが、一二塁間辺りでポジションをとれば、概ね間違いないと思います。(多分ですが・・・)

 

4) 三塁審

外野責任範囲への打球

自分の外野責任範囲へ打球が飛んだら、ためらわずに打球を追いましょう。内野でのジャッジは残った審判員に「おまかせ」でOKです。

反応良く打球を追いかけるには、常に走者の状況(特に二塁審の位置)を確認しておきましょう。

下記②以下は、三塁審が打球を追わない場合の動きです。「自分のテリトリーに打球が飛んだら、とにかく追う!」まずは、これを徹底して下さい。

走者なし センター・エリアの場合

⇒二塁をカバー

二塁審が打球を追ったら、二塁のダイヤモンド内へ移動し、プレーに備えます。

二塁は外野から最も近く、意外と早く送球が帰ってくることがありますので、移動はすみやかに。

上記以外の場合

⇒三塁にとどまる

基本的に移動することはありませんので、プレーが見やすい位置を確保してジャッジして下さい。

走者三塁の場合は、ダッグ・アップの確認が必要です。三塁走者と打球の両方が同時に良く見える位置を確保して確認して下さい。

 

ここまで、多くのページを割いてきましたが、あくまでも、管理人の理解に基づいたご説明であり、間違いや誤解もおそらく多々あると思います。また、野球規則や審判規定なども年々改訂・改良を重ねているようですから、実際に審判をされる際には、所属団体の最新の取り決めや審判講習資料などを参考にして下さい。また、間違い等にお気づきの方は、ぜひメールにてご指摘下さい。こうしてサイトに上げた以上、なるべく正確なものにしたいと思いますので。皆様のお知恵をお貸し下さい。よろしくお願い致します。

最後になりましたが、この「審判講座」をお読み頂いた方が、少しでも安心して、自信をもって、審判に取り組んで頂けることを願っております。